この記事のポイント
- ChatGPTが広告を開始し、Criteoが初のアドテックパートナーとして参画。LLM経由のユーザーはコンバージョン率が通常の1.5倍
- 「AI版AdSense」を掲げるKoah Labsが2,050万ドル(約30億円)を調達。元Google AdSense幹部のVCが主導
- 「AIを使って広告する」時代から「AIの中に広告する」時代へ。日本のマーケターが今すぐ備えるべき3つのこと
何が起きたか──2つの決定的な動き
① ChatGPT広告にCriteoが初参画(3月2日)
広告テクノロジー大手のCriteo(クリテオ)が、OpenAIのChatGPT広告パイロットプログラムに初のアドテックパートナーとして参画した。対象はChatGPT Free版とGo版(米国)のユーザーだ。
OpenAIは2026年1月にChatGPTへの広告導入を発表し、2月9日から実際に広告配信を開始している。広告は会話の回答の下部に「スポンサー」と明示される形式で表示される。Plus、Pro、Business、Enterprise、Educationの有料プランには広告は表示されない。
注目すべきは、Criteoが明かしたデータだ。同社の米国クライアントの実績によると、ChatGPTなどのLLMプラットフォーム経由で流入したユーザーのコンバージョン率は、他の流入経路の約1.5倍だという。AIに相談してから購入する人は、購買意欲が高い状態で商品ページに到達するということだ。
CriteoのCEO、マイケル・コマシンスキー氏はこう述べている。「これはAI体験における広告の進化にとって、エキサイティングな一歩です。ユーザーの信頼を基盤に、付加価値のある関連性の高い広告を届けることに注力します」。
Criteoは世界で1万7,000の広告主を抱え、年間40億ドル(約6,000億円)以上のメディア支出を管理している。その規模のプレイヤーがChatGPT広告に本格参入したインパクトは大きい。
(出典: Criteo プレスリリース、TechCrunch)
② 「AI版AdSense」Koah Labsが2,050万ドル調達(2月24日)
ChatGPTだけではない。AIアプリ全体に広告インフラを提供しようとする企業が急成長している。
サンフランシスコのスタートアップKoah Labs(コア・ラボ)が、シリーズAで2,050万ドル(約30億円)を調達した。リード投資家はTheory Ventures。同ファンドの創設者トマシュ・トゥングズ氏は、かつてGoogle AdSenseチームに在籍していた人物だ。まさに「AdSenseの知見をAI時代に持ち込む」投資と言える。
Koah Labsの仕組みはシンプルだ。
- AIアプリの開発者がKoahのSDK(開発キット)を数行のコードで導入する
- ユーザーがAIと会話する中で、文脈に合ったスポンサーメッセージが表示される
- 広告は「スポンサー」と明示され、AIの回答自体は操作されない
- Koahが広告収入の30%を手数料として取る
Google AdSenseがウェブサイトに広告を埋め込む仕組みを普及させたように、KoahはAIチャットアプリに広告を埋め込む仕組みを普及させようとしている。
すでに実績も出ている。月間アクティブユーザー200万人以上、累計クエリ1億7,500万件以上を処理し、3,500万回以上のネイティブ広告を配信した。学術検索AI「Liner」(ユーザー1,000万人超)やスペイン語圏のAIアシスタント「Luzia」などが導入パートナーだ。
CEO のニック・ベアード氏はこう説明する。「生成AIは人々の情報消費の方法を変えた。マネタイズもそれに合わせて進化しなければならない。サブスクだけでは推論コストに見合わず、従来の広告モデルはユーザー体験を損なう。だから、AIネイティブな広告が必要なんです」。
(出典: Adweek、SiliconANGLE)
なぜ重要か──「AIで広告する」から「AIに広告する」への転換
この2つの動きが示すのは、広告業界のパラダイムシフトだ。
これまでのAI×マーケティングの議論は「AIを使って広告を効率化する」という話だった。AIでコピーを書く、AIでターゲティングを最適化する、AIでクリエイティブを大量生産する。主語は人間で、AIは道具だった。
しかし今起きているのは、まったく別の変化だ。
消費者がAIに「何を買うべきか」を相談する時代になった。
その瞬間こそが、マーケティングにとって最も重要な「購買決定の瞬間」だ。GoogleのCEOが語ったエージェンティックコマース構想では、AIエージェントが商品を検索し、比較し、代わりに購入まで行う未来が示されている。
この変化を数字で見てみよう。

CPMが3倍でも、コンバージョン率が1.5倍なら、費用対効果は十分成り立つ。しかもプライバシー規制が強化される中で、Cookieに依存しない「会話の文脈」でターゲティングできるのは大きな利点だ。
日本のマーケターにとっての意味
正直に言えば、ChatGPT広告もKoahも、今のところ米国限定だ。日本に来るのは早くても半年後だろう。
だが、ここで重要なのは「いつ日本に来るか」ではない。
消費者の行動が変わりつつあるということだ。
HubSpotの2026年マーケティング実態調査によると、すでにマーケターの19.2%がAIエージェントを使ってマーケティングをエンドツーエンドで自動化している。86.4%がAIツールを利用し、61%が「過去20年で最大の変革期」と認識している。
日本でもChatGPTの利用者は急増中だ。彼らは遠くない将来、「おすすめの会計ソフトは?」「この業種に合うCRMは?」とAIに聞くようになる。そのとき、自社がAIの回答に出てくるかどうかが、新しい競争軸になる。
どう活かすか──日本のマーケターが今やるべき3つのこと
1. GEO(生成エンジン最適化)を始める
GEO(Generative Engine Optimization)とは、AIが回答を生成するときに自社の情報が引用されるよう最適化する手法だ。従来のSEOが「検索結果で上位に出る」ことを目指したのに対し、GEOは「AIの回答に自社が含まれる」ことを目指す。
具体的にやるべきことは明確だ。
- 自社サイトに構造化データ(Schema.org=GoogleやAIに情報を正確に伝えるためのタグ言語)を実装する
- 一次情報(独自調査、ケーススタディ)を発信する
- 業界メディアへの寄稿・取材対応で第三者からの言及を増やす
- FAQ形式のコンテンツを充実させる
Princeton大学の研究によると、AIは第三者メディアの権威ある情報源を自社コンテンツよりも優先的に引用する傾向がある。つまり、PR活動とコンテンツマーケティングの重要性が増す。
2. 「AIでの発見」をカスタマージャーニーに組み込む
マーケティングファネルに「AI検索・AI相談」というタッチポイントを追加しよう。
- 自社の製品名・サービス名でChatGPT、Gemini、Perplexityに質問してみる
- AIがどう回答するかを定期的にモニタリングする
- 競合と比較してどう紹介されるかを把握する
これは今日から0円で始められる。AIの回答で自社がどう扱われているかを知ることが第一歩だ。たとえばSaaS企業なら「中小企業向けのCRMで一番使いやすいのは?」とChatGPTに聞いてみてほしい。自社が回答に含まれるかどうかが、次の競争のバロメーターになる。
3. AI広告の予算枠を検討し始める
ChatGPT広告が日本に来たとき、初動で動ける企業が先行者利益を得る。Google広告が日本に上陸した2000年代初頭のように、参入が早いほどCPCは安く、競合は少ない。
- 2026年下半期の広告予算に「AI広告テスト枠」を確保する
- 旅行、金融、消費財に加え、BtoB(CRM、会計ソフト、コンサル)などAI相談との相性が良い業種は特に優先度が高い
- 社内でAI広告の情報収集担当を決める
(参考: Digiday)
まとめ
2026年は「AI広告元年」として記憶される年になるかもしれない。
ChatGPTの広告にCriteoが参画し、Koah Labsが「AI版AdSense」として急成長している。広告業界のインフラが、ウェブからAIへと確実にシフトし始めた。
重要なのは、これが単なるチャネルの追加ではないということだ。消費者の意思決定プロセスそのものが変わりつつある。「検索して比較して買う」から「AIに聞いて買う」へ。
その変化に早く気づき、準備を始めた企業が、次の10年の勝者になる。


